私たちをつくるもの
2011年度卒園保護者 寺谷まり子
私が親愛幼稚園の見学会に参加したのは今から10年以上前の秋の頃でした。子どもと一緒に広い園内を一周りし、園舎と図書室の渡り廊下を通りがかった時、柔らかな風が吹いて心地よい音が鳴り響いたのを覚えています。見上げればウィンドチャイムのような楽器が静かに揺れています。壁には楽器の説明書きが立て掛けられていました。説明書きによると楽器の名前はルナといい、ドイツのシュタイナー教育を受けたデザイナーによってつくられ、風の動きで音響を奏でる仕組みになっているということでした。その時は子どもたちのために素敵な楽器を用意してくださってるのだなと思った程度でしたが、説明書きの印象的な一文が心に残りました。「(ルナは)子どもたちに現実の向こう側を感じとる力をつけてくれます」。
見学会を終え、入園を希望した私ですが、娘の方は訪れたその日から親愛幼稚園が気に入った様です。幸いにも3年間のほぼ毎日をご機嫌で通園できました。通園時間は自宅から自転車で10分程でしたが道草だらけです。猿沢池のあたりにたむろしている鹿や鳥に名前を付けたり、立ち止まっているとお友だちと会って日が沈むまで遊んだり。やがて娘には「らしさ」が現れていました。例えば娘は好きなことは好き、嫌いなことはいやと言い表せることができました。私が自分自身がまわりの人の顔色を伺ってそれほど好きでもないことを好きと言ってしまうので、娘のブレない性格が羨ましく思える時があります。
「その人らしさ」はどこから生じるのでしょう。娘に関しては、感性と感覚を養ってくれた幼稚園の環境が育んでくれたと言えます。加えて、大好きな先生やお友だちからありのままを受け入れてもらっていると確信できたから自信が持てたのでしょう。
ちなみに、娘はルナの音色を園にあったきれいなものの一つとして感じ取っていたようです。寂しくて不安な時に抱きしめてくれる大人のように、あたたかくて美しいもの。ルナの風に揺れるあの音色も同様に、はっきりと言葉ではないけれど、子どもたちの心に優しくもしっかりと響いていたのではないかと私は想像しています。
卒園して数年経ちましたが、親愛幼稚園のお友だちとは今も仲良しです。
私たちがルナから伝えてもらったのは、あなたはかけがえのない大切な人なんだよと聞こえる愛の響きです。この先何があっても、心しなやかに生きることが、この園に育てていただいた私たちにできるご恩返しの1つです。最後に、私が幼稚園で心に残ったもう一つの言葉を記します。願わくば、言葉の向こう側にあるものを感じ取っていただけますように。
「おこころは、ひとつ」